子育て百科「育てる」

   佐賀新聞社に2001年から2002年にかけて連載。
   ( 筆者 / さくらんぼ保育園主任保育士 角田信子 )




生活リズム 子供中心に据えて

  「お散歩、続いていますよ。」お母さんがニコニコと報告されます。朝6時自立起床、朝食前の散歩、夜絵本を読み8時就寝。日中、園では思い切り身体を動かし、自然の中で遊ばせることを引き受ける。この生活リズムが子供を生き生きさせていくのです。
どの子もすべてのことに意欲的になり、大らかで丈夫に育っていきます。そういう生活を組み立ててもらうお願いの報告なのです。

  夜遅くまで大人の生活に振り回され、朝はしかって起こされ、朝食はパンとジュース。そのうえよい子を求められる。これでは情緒も不安定で、仲間と遊ぶどころではなく、乱暴、グズグズ、長泣き、無気力は当然のことです。大人も子育てどころではなく現実に流されていく。しかし、生きる力の根幹をつくり、人格形成の礎をつくる幼児期。今やっておかねばならないことがあります。

  情報のはんらんする中、何が大切か見極める目は学習から始まります。賢いお母さんたちは、自分を律し、子供を中心にえた、生活の営みを始めています。励まし、力になり、ともに学びながら、子育てをしていきたいと思います。




友達への気遣い 信頼感はぐぐむ時期

  サクッサクッと落ち葉を踏みしめ、急こう配の山を登っていく。片腕に薪を抱え、もう一方の手でドングリを集める子どもたち。
  背には今朝作ってもらった弁当と着替え。自然の中に一日身を置いてみる。
  日ごろ気づかない、仲間度同士のかかわりが見えてくる。大人が気づかないところで、こんなに気遣いを友達にしていたのか。人間が本来持っているやさしさを教えられる。他を思いやり、何をしてもらいたいのか瞬時に察知し、助ける。それを自然に受け入れる。その姿に私は感動する。

  机の上で文字や数字を覚え、何でも出来る子どももすごい。しかし、自然の中で生きる力をつけ、仲間との生活の中で、人のつらさ、人の悲しみにスッと手を差し伸べられる子どもって素晴らしいと思う。自分がよければ人をけ落としてでも、という教育は幼児の生活にそぐわない。人間への信頼感をはぐくむ時期。

(岩山登り)
  「仲間はいいなあ、友達といると安心だ」という生活をしてきた子どもは、きっと社会の中で人間らしく、人を大切にして生きていくのであろう。そしてそのお手本は、いつでも大人。




感性育てる自然 悲しみから生きる力

  この前、この枝に小鳥が居たね、と子どもたちはよく覚えている。冬イチゴがある場所も忘れない。子どもの内なる自然を大切にし、見守っていれば、ヨチヨチ歩きのころから自然のものを求めていく。そしてその中に身を置くことを喜ぶようになる。

  窓や壁に本物を模した作り物で、かわいらしく飾りたてた保育室。プラスチックおもちゃの原色。それが素敵だと思わされていく現実。真っさらの脳にどんどん配線されていく神経の網の目。何を心地よいと思うかは感性であろう。感性は脳のネットワークを作り、それが思考、心へとつながっていく。

  子どもが6歳になれば、四季を通じて山歩きをする。蛍を見、お月見をする。海辺で波を追っかけ、雪山で、太陽に光るつららを食べ、吹雪の中でスキーをする。私たち大人がそうであったように、子どもたちも悲しみに出会うだろう。

  海や山、風や木や月が、悲しみを本当にわかってくれる事を知り、自然が生きる力を与えてくれることを知り、そして再び力強く、しなやかに生きていく事を知るだろう。子どもたちに、そういう場と本物を伝えたい。



文学との出会い 心耕し羅針盤となる

  前回、自然の中での体験が、生きる力を培い学習の基礎になることを書いた。あわせて大切にしたいことは、すぐれた文学との出会いである。

 人は、文学や芸術により人間を理解し、大自然とともに生きていることを知る。心はそうやって耕されていく。子どもたちの生活がいつも歓喜に満ち、好きなときに絵をかき、保育士の優しい声で、絵本を読んでもらう。学校に入って困らないようにと、大人は先回りしていろいろ心配し操作するが、子どもはそんなことを考えて生きてはいない。今が充実していれば目が輝く。

  親が夕方迎えに来ても、もっと遊びたい。日曜日も園に行きたいという。子どもの内なる自然にまかせてみる。どの子も人類の歴史のDNAを内に持っているのだから。その羅針盤は、周りの大人の生き方であり、すぐれた文学による。

  こういう生活を幼児期に大切にされ、育った子らは困難にぶつかった時、越えていく力を自然に身に付けていく。どんなに暴れん坊でも、絵本に食い入るように、集中できるようになれば、私は安心する。後に文学が自ら自分を高め、育てていくことを知るからである。




小鳥憩う大樹に 根っこしっかり張らせて

  ♪春が来たら 耳をあててごらん 大きなケヤキの樹の幹に
   聞こえるだろう その暗い幹のなかを 樹液のかけのぼる音が♪

大きな樹を見ると耳をあてて聞く。子どもたちは「聞こえる」「聞こえる」と目を見張る。

  この美しい歌のように、この子たちが大きな根っこから栄養をくみ上げ、枝を繁らせ、花を咲かせ実をつけ、時には小鳥を憩わせる大樹に育ってくれることを願う。ものの本質を見極めていくと『根本』という言葉があるように、根っこに行き着く。

  根っこ育て。地味で地道な仕事である。幼児期の保育に華やかなものを求める風潮が強いが、根をしっかり張ったものが後に見事な花を咲かせる。今、こどもを良く観ている保育者は、年々子どもが弱くなっているのを感じている。だからこそ花を開かせるのを急いではならないのだ。

  卒園期。樹液がかけ登る音は大人には聴こえないが、じっと目を凝らせば、子どもの中に根っこがみえる。体もできた。ものを認識し考える力の根っこもできた。仲間を信じ自分を信じる心の根も伸びている。あと小さな根がたくさんみえる。

  がんばれ、根っこ。


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